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大阪高等裁判所 昭和30年(行ウ)1号 決定 1955年8月04日

大和高田市東四丁目千二百七番地

申請人

田中楢次郎

市新町

被申請人

葛城税務署長

右当事者間の昭和三十年(行ウ)第一号電話加入権執行処分停止命令申請事件について当裁判所は当事者の意見を聴いたうえ本申請を理由ないものと認め次のとおり決定する。

主文

本件申請を却下する。

(裁判長裁判官 田中正雄 裁判官 神戸敬太郎 裁判官 平峯隆)

(参考)

1 電話加入権執行処分停止命令申請

大和高田市東四丁目千二百七番地

申請人(控訴人) 田中楢次郎

同市 新町

被申請人 葛城税務署長

(被控訴人) 牧野豊

電話加入権公売処分執行停止申請

申請の趣旨

被申請人が昭和二十九年一月二十日申請人に対し行へる左記電話加入権の公売処分の執行を停止する。

加入権の表示

大和高田局 第弐七弐番

電話加入権 加入名儀人 田中楢次郎

との停止命令の発布を求める。

申請の理由

申請人は前示電話加入権を有するものである。被申請人は申請人に於て昭和二十四年度相続税金十四万二千六百四十円の滞納ありとし昭和二十八年六月二十九日申請人に対し滞納処分として前示加入権の差押を為した上同二十九年一月二十日該加入権の公売処分を開始した。

申請人は右相続税賦課処分の無効を確信し、従ひて右差押処分公売処分の無効を主張するものであるから、昭和二十九年二月原告として被申請人を被告とし奈良地方裁判所へ相続税賦課処分、差押処分、公売処分の取消を求める左記行政事件を提訴した。

昭和二十九年(行)第二号相続税無効確認差押取消請求事件

申請人(右事件の原告)は右事件の提起と同時に行政事件訴訟特例法第十条第二項により前示加入権の公売処分の執行停止命令を同裁判所に申請した処同庁は同年二月十八日左記の決定を以て右訴訟事件の判決を為すに至るまで右公売処分の執行を停止するとの裁判を下した。

昭和二十九年(行モ)第一号電話加入権公売執行停止命令申立事件の決定(末尾正写の通り)

一、然る処前記本案訴訟事件については、昭和三十年六月三十日原告敗訴の判決あり同年七月九日其の送達あり申請人は此判決に対する控訴を本日提起した。

一、右決定は前記の通り失効したが被申請人に於ては之に乗し公売処分敢行の虞あるを以て申請人は行政事件訴訟特例法第十条第二項に依り至急本件停止命令の発布を希ふ次第なり。

疏明方法

疏第一号 停止命令 一通

附属書類

一、委任状

本日提起の本案訴状に在り必要あれば追完します。

昭和三十年七月二十二日

申請人(控訴人)代理人

弁護士 久保田美英

八尾市大字万願寺五二六

大阪高等裁判所 御中

決定

大和高田市東町四丁目千弐百七番地

申立人 田中楢次郎

右代理人弁護士 久保田美英

同 松山精一

同市 新町

被申立人 葛城税務署

右署長 由良貞吉

右当事者間の昭和二十九年(行モ)第一号電話加入権公売執行停止命令申立事件について当裁判所は、申立人の申立を相当と認めて当事者の意見をきいた上、つぎのとおり決定する。

主文

被申立人が申立人に対してなした昭和二十八年六月二十九日附別紙目録記載の電話加入権差押にもとづく、公売処分は申立人、被申立人間の当裁判所昭和二十九(年)行第二号相続税無効確認等請求事件の判決をなすに至るまで、これを停止すべきことを命ずる。

昭和二十九年二月十八日

奈良地方裁判所民事部

裁判長裁判官 菰淵鋭夫

裁判官 谷野英俊

裁判官 岸本五兵衛

右正写ス 訴訟代理人

目録

大和高田局第弐七弐番

電話加入権

加入名儀人 田中楢次郎

以上

右正写ス 訴訟代理人

2 意見書

申請人 田中楢次郎

被申請人 葛城税務署長

右当事者間の御庁昭和三十年(ネ)第九一六号相続税賦課無効確認等請求控訴事件に付帯する昭和三十年(行ウ)第一号公売処分執行停止命令申請事件について被申請人は左のとおり意見を陳述する。

申請人は被申請人が申請人に対してなした相続税課税決定処分に伴う滞納処分の執行停止を求めるため本申請に及んだもののようであるが、該課税決定処分は原審判示のとおりなんら違法な点がないのみならず、本件申請は次の理由により許容さるべきでない。

一、本件執行により償うべからざる損害は生じない。

行政事件訴訟特例法第十条によれば行政処分の執行は原則として出訴によつて妨げられるものではない。ただ、同法同条第二項にいうその処分の執行により生ずべき償うべからざる損害を生ずる場合においてのみ、執行が停止されるのであるが、ここにいう償うべからざる損害とはひつきよう金銭をもつて償うことのできない場合であることは学説ならびに従来の裁判例に徴して明らかである。

本件の場合、差押処分の執行により申請人の破むる損害は差押物件の処分禁止または差押物件の公売に伴う所有権喪失による損害であつて、金銭をもつて償うことのできる損害であることはいうまでもないのであつて、本申請において、申請人は被申請人のなした相続税の課税決定処分を無効な処分であると断定し、これにもとずく本件差押処分もまた無効であり、この差押物件(電話加入権、大和高田局二七二番)を公売に付されれば申請人は償うことのできない損害を受けるといつている。

しかしながら、原審判示に明らかなごとく、被申請人が申請人に対して昭和二十五年八月十日付でなした相続税(贈与税)金十四万二千六百四十円の賦課処分については、なんら無効原因と目されるべきかしが存在しないのであるから、被申請人は申請人が本申請において、右の適法になされた相続税賦課処分にもとずく本件滞納処分の執行の停止を求めること自体理由がなく、この場合、処分の執行によつて償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があるということはできないと考える。

さらに本件控訴審において仮りに被申請人敗訴の判決をみたとしても国は該処分によつて申請人に与えた損害を金銭をもつて賠償するのであつて(国家賠償法参照)申請人の被むつた損害はこれによつて完全に償われるべきであるから、本申請の場合、償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があるとはいえないのである。

二、本件執行停止は公共の福祉に反する。

租税の徴収が国家財政の見地よりして、適時かつ適切になされねばならぬことはいうまでもないところであるが、本件申立のような公売処分の執処停止が容易に許容されるならば国家財政の円滑な運営は到底期待できないから公共の福祉に反すること著しきものといわねばならない。(行政事件訴訟特例法第十条第二項但書前段参照)

(追記)

なお、付言するが、原審においては本件滞納処分の執行停止決定がなされたが、これは被申請人が原審裁判所に対して十分な意見の開陳を行わない間になされたもので(被申請人に対して求意見書及び執行停止命令申立書(写)の送達もなされず当時簡単に課税及び滞納処分の執行の事情を口頭で説明したに過ぎない。)被申請人としては右の停止決定については現在なお疑義を抱いているものである。

よつて、申請人の本件申請は失当であるから却下さるべきである。

昭和三十年八月二日

被申請人 葛城税務署長

牧野豊

大阪高等裁判所第三民事部 御中

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